Journal

2021 Nov 26
Sailer Interviews

SailerインタビューVol.22

 

 

(ウィーンの宮殿での茶会)

「人との出会い」それが私の人生のすべて

水出さん(70代) 千葉県柏市

Sail を通して日本のことを再認識

今年(2021年)に入ってだと思いますが、Sailのことが日経新聞に取り上げられている記事を目にしたとき、Sail の活動のスタートがシニアを対象にしていることにまず注目しました。国際交流は若い人たちのものというイメージが一般にはあるけれども、Sailはシニアの力と経験値を生かそうとしていて、シニアを大切にしてくれる良い活動だなと感じました。
最近、目にしたフランスの作家・哲学者のボーヴォワール(1908~86)の言葉を思い出したからです。いわく、「老いは個人の問題ではなく社会の問題である。…(中略)厄介者になった高齢者をどう扱うかで、その社会の質が測られる」と。
まだお若いHelteの後藤代表がまさにここに着目されたのは素晴らしいことだと思っています。それにHelteが私が住む柏市にあるのも、もう一つの決め手となりました。
そのようなわけでSailerになりましたが、一体日本人のSailerの方々はどのような方々なのだろう、と思い、金曜午後に毎週開かれているオンライン交流会「喫茶るんるん」をのぞいてみました。そこにはまさに多士済々、皆さんのお話を聞いているだけでも面白いし、新しい世界、知らない世界がどんどん広がっていきます。以来「喫茶るんるん」には時間の許す限り、参加させて頂いています。

Sailは今まで40〜50回くらい経験しました。ほぼ週に2回、ウイークデイの午前中に予約を入れて楽しんでいます。会話の中からたくさんの発見があり、とても楽しいです。お話がはずみ、時間が残り少なくなると、「何曜日の何時に予約を入れていますから、よかったらまたお話しましょうね」とお伝えすることにしています。10回以上続けてお話している方も数人いますね。
私は初めての外国人の方には「なぜ日本に興味を持ちましたか」とたずねることにしていますが、かなりの方が「アニメ」とお答えになります。改めて、日本のアニメは世界各国にまで強い影響力を持っているのだと驚きました。私の孫もアニメが大好きなのですが、「アニメってどうなの?」とむしろ否定的に思っていただけに、これだけ世界の人々を惹きつけるものだから孫が夢中になるのも無理はないのかな、と思うようになりました(笑)。

色々な国の方と交流しましたが、特に印象に残るのはメキシコの女性です。彼女はメキシコシティからバスで一時間ほどの街に住んでいて、そこには日本人植物学者が関わった素晴らしい植物園があり、メキシコシティにある桜並木(ジャカランタ?)も日本人がつくったことなどを教えてもらいました。
彼女は大学の先生をしていて学生に問題をつくるのが大変だと話していたので、「愛読書はありますか?」とたずねたら、メキシコの代表的な作家ファン・ルルフォの小説だと答えました。早速私も買って読んでみたんですよ。私は彼女に、遠藤周作の『沈黙』が各国語に翻訳されているから、それを是非読んでほしいとすすめました。メキシコはカトリックの国だからきっと興味を持ってくれるのでは、と思ったからです。
舞妓さんに興味津々の彼女は、何回か訪れた京都では舞妓姿になる体験もしたとか。そして「オンラインで舞妓さんと交流できるイベントがあるから参加しませんか」といってくれたので、日本にいる私も一緒に参加しました。日本から遠く離れた国の女性に舞妓さんのイベントを教えてもらい、一緒に共有する。なかなか不思議な面白い体験でした。
ブラジルの若い男性とも何回か話しましたが、なんと彼は尺八を習っているというのでビックリしたことがあります。ブラジルには古き良き日本が残っているのだなぁと、改めてブラジルに日本を再発見した思いです。


人との出会いで自分の世界が広がる

ふりかえってみると、私の人生はつくづく「素晴らしい人々との出会い」で成り立ってきたのだと思います。
さきほど遠藤周作先生の本をメキシコのSailerに紹介したと話しましたが、実は今から50年以上前の私が学生だった頃、初めて遠藤先生とお会いして以来、先生がお亡くなりになるまでの30年以上の間、私は遠藤先生と親しくおつきあいさせて頂いたのです。田舎から出てきたばかりの私は、アポイントも取らず、いきなり先生のご自宅に伺い、学内の講演会の依頼をしたのが初対面でした。純真無垢(?)で無鉄砲な世間知らずの女子学生が面白かったのか、以来本当によくかわいがって頂きました。
ある日、先生に「イスラエルに一緒に行かないか? 」と誘われ、先生のイスラエル取材旅行にも奥様と同行させていただきました。1969年のことで、当時は1ドル360円の時代。親からお金を借りて旅費に当てました(笑)。

フリーのライターとしてやってきましたが、中でもインタビューの仕事が印象に残っています。何者でもない私が、有名無名にかかわらず、ふつうはお会いすることのできない多くの素晴らしい方々と仕事とはいえ、お会いできたのですから。そういう何かしら優れたものを持つ方々に接することによって、まったく未知の世界が広がり、私の人生に大きな影響を与えてくれたことに心より感謝です。

イスラエル・山上の垂訓の丘で遠藤周作先生と


日本文化の素晴らしさを世界の人に伝えたい

千葉県柏市に住んで20年以上過ぎました。私が住む地域には住民参加で作り上げたNPOの『まつばR』というコミュニティカフェがあり、私もそこで年に10回ほどのペースで行われる講演会の企画のお手伝いをしています。講師は私が見つけてきて『まつばR新聞』に講演の紹介記事を書き、講演当日のお世話もしています。今までに、JAXAの偉い方、能楽師の先生、万葉集の専門家、南極観測隊に参加した方など各方面の方々をお呼びしました。講演が終わると、スタッフと講師とお酒を囲んで打ち上げです。今はコロナ禍で休止状態ですが、そろそろ再開できたらいいなぁとは思っています。

趣味ですか? 茶道になるのかしらね。柏市では本格的な茶室が安く借りられるので、年に何回か友人・知人を誘って茶会を楽しんでいます。そもそもお茶を始めたのは、着物を着たくても着る機会が少なかったのをぼやく私に、友人が「それなら、茶道を習ったら?」といわれたからです。私の実家は岐阜で織物業を営んでおり、和服の布がどれほど多くの人の手間暇がかかっているかも知っていましたし、織物を大切に思う気持ちが強かったからです。着物は一回でも多く着てあげたい、そんな気持ちですね。
 何年か前には、茶道の先生がオーストリアのウィーンでお茶会をするというので私も同行しました。ウィーンの宮殿のホールでコンサートがあり、そのコンサートに来る方々に抹茶とお菓子を差し上げましたが、そういえば、テレビ局からも取材に来ていましたね。

近隣にハワイ島に家を持っている友人夫婦がいて、よくハワイ島にも出かけましたが、そのご主人から「あのね、僕たちじいさんがハワイのある場所でフラを踊ったら、もう拍手喝采でアンコールを求められたんだ。でもぼくたち一曲しか踊れないからきちんと習おうと思っているんだよ。ハワイでも年寄りのフラダンスは珍しいんだよ。お宅のご主人も一緒に習わない?」と誘われ、私は「おもしろい!」とすぐその話に乗りました。だって、謹厳実直そのもののサラリーマンの我が主人が、ある日フラダンサーに変身したらそのギャップに誰しも驚きますよね。そこで、主人がお酒を飲んだスキに、フラを習う事を承諾させてしまったのです(笑)。
踊りが苦手な私は、ウクレレを習うことにし、以後、主人たちはハワイで行われる国際コンテストに出場して見事2位を勝ち取り、なんと2014年にはニューヨークはカーネギーホールの舞台に5人で「じいさんフラ」を踊るという快挙(?)を果たしたのです。私も着物を着てホールに観に行きましたよ。ニューヨークは街にパワーが満ち溢れ、そこにいるだけで元気になれる、とても魅力的な街だと思います。

カーネギーホールでのコンサートに参加


以前は海外にもたびたび行きましたが、今は夫婦で国内の温泉や大好きな京都に足を運んでいます。私たちの世代は英語を話すことに、ある種のあこがれがあると思います。でも外国のことを知れば知るほど、自分の国のこと、日本文化をもっとよく知らないといけないのではないのでしょうか? これからも、Sailで出会った世界の方々に日本文化のすばらしさを少しでもお伝えできたらいいな、と考えています。

(聞き手・officeSAYA 小出広子) 

 

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