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2023 Jul 11
Sailer Interviews

SailerインタビューVol.34

本間さん (70代)長野県

 最愛の伴侶を得てからは、夫の転勤に伴い全国各地を転々とする日々だった。生まれ育ちは長野だが他の土地もまた想い出深い。やがてご主人の仕事も一段落し、現在は善光寺まで徒歩20分ほどの距離で暮らす。 
 長野駅から一直線に伸びる門前町が繋ぐ善光寺は、特定の宗派をもたない。教義や信仰対象の相違によって分裂したのが、「宗派」というものだ。しかし善光寺の御本尊を祀った本多善光(よしみつ)は、宗派が生まれるずっと以前の飛鳥時代の人物だった。したがって善光寺は、すべての人びとを受け入れてくれる。
 どこが一番良かったかと訊かれると「どの土地もみんな よかったですよ。もう一回、転勤してもいいぐらいです」
 本間さんは、あっけらかんとして、温かな笑みをこぼす。一定の土地に住めなかった不安定な境遇を、むしろ愉しんできたのだ。国境や人種などの分け隔てとは無縁な、豊かな心の持ち主だった。あたかも、長野を代表するシンボルのようでもある。

相手の気持ちにたって考えるのを忘れない。

 還暦を過ぎてから民生委員を務めていました。もちろん大変なこともありましたよ。でも私は、「とてもいい経験をさせてもらったなぁ」って思っています。「弱者に寄り添って」というほど大げさな話ではないんですが、「どんな人の気持ちも大切にしなければいけない」ことを学びました。 

 Sailを始めたばかりのころ、滋賀県で働いてらっしゃるベトナムの方とつながりました。まだ、若い方です。「大阪でどこかへ遊びに行きたいんです」と言われたので、天王寺で勤務していた夫にも訊ね、「あべのハルカス」を教えて差し上げました。とても喜んでいましたね。
 1980年頃、私たちは服部緑地公園(大阪豊中市)に住んでいたんです。周囲はマンションばかりで新住民が多く大阪色はあまり感じられない土地柄です。そこで休みの日には家族で、近くは万博公園、関西弁が飛び交うミナミ(難波)堺、京都、奈良、白浜までよく足を延ばしました。

 Sailでつながるみなさんは、私の孫のような年齢の方たちばかりですから、彼らのことはとても気になります。夫の転勤で、これまでいろいろな土地を歩いてきました。その経験を生かして、できるだけポジティブな話をするように心がけています。

 国外在住の方で横浜での就職が決まったという若者がいました。私にとって横浜は第2のふる里とも言える土地です。会話を終えた後に彼が勤務する会社のことが妙に 気になり始めてネットで調べてみました。結果、しっかりした会社なようで安心しましたが、例えばブラック企業のような会社に送り込まれたとしたら日本人としてとても嫌な気持ちにさせられます。Sailを切ってから調べたので彼に伝えることもできず、意味はありません。でもやっぱり心配になってしまうんですね。

 温暖な国の人とのSailで「魚の仕事で日本の北海道に行く」 という話もよく聞きます。希望に胸をふくらませ 瞳を輝かせて「寒いのは大丈夫です。」って、 皆さんそうおっしゃいます。でも同じ北海道でも人気(ひとけ)のない海辺の 吹きっさらしの工場で働くことになるのでは・・・とついつい配属先の会社の詳細が気になってしまいます。後で Google Earth で調べてホッと胸をなで下ろしましたけれど。そうやって遠い外国から来る若い人の人生を勝手に憂慮したり安心したりを繰り返しています ()

限られた短い時間を濃厚なものにする話術。

 私はSailで話した人の記録を全部ファイリングしています。その記録を見れば誰がどんな話をしてくれ、 私がどんな話をしたか、だいたい振り返れます。プロフィール写真もイラストにして書いておくと面白いし自分で書いた絵は結構覚えているものです。25分間の会話記録はその人とのつながりを思い出して 再び楽しめる宝ものです。

 技能実習生で来日予定の方に聞くと、「とび職」「水産加工」「介護」「ホテル」「IT」「自動車」「大手スーパーでお弁当を作る」など、その職種は様々です。若い人が少なくなっている日本に来てくださることは私たちにとって本当に有難いことだと伝えています。

 冬には「ちょっと待ってください」と言って部屋の窓を開け、大雪の後の白銀の世界にカメラを向けると南の国の人たちは皆さん「きれい!」と喜んでくれます。代わりにあちらの庭を写し「マンゴーの木です」と話して下さったり・・・。スキーの話に及ぶこともあります。日本在住の方に「長野に来ればスキーができますよ」と言ったら「琵琶湖バレイでスキーをしたことがあります」と返されて話が非常に盛り上がったことがあります。

 Sailはやっぱり楽しいですよね。人によって話す内容が全く違うのが魅力です。
 最初の頃は「どこに住んでいるんですか?」「長野です」なんていう単純な会話ばかりしてたんです。 そしたら、あっという間に時間になってしまい残念な内容に終わったことが多々ありました。そこでその後は「最近何か楽しいことはありましたか?」などもう一歩突っ込んだ会話を楽しめるようになりました。日本語がまだたどたどしい人には絵を書いたり、手指を使ったりして、通じるとまたそれが楽しいものです。
 ほかにもSailの背景に日本関連のグッズが並んでいたら、その話題に振ってみる、「 ミャア!」って ネコの声が聞こえたら、それをきっかけにペットの話をしてみるなど、いろいろですね。
 「日本のどんな歌を知っていますか?」「手紙です」「こういう歌ですか?(アンジェラ アキの)」「そうです!」で、一緒に歌ったことは楽しい思い出です。私 歌でも楽しめます。コロナ禍の狭間にNHKのど自慢に出ることができました(笑)。

 相手の後ろから誰かの気配がしたので確認すると、声の主がお母さんだったことがありました。そしたら彼女がお母さんの方へカメラを向けたんです。互いに手を振って挨拶を交わしたら今度は「おばあさんもいます」と連れて来られて。私が年齢を訊いたら「だいたい100歳です」って言われました。(笑)

 「ちょっと待ってください」と言って台所からお鍋を持ってきて「これは今日のおかずの肉じゃがです。」と、中を見せたら、相手はバナナ料理を持って来て作り方を教えてくれました。ベトナムで食べた空芯菜が美味しくて、以来ナンプラーだけの自己流の味付けで食べていたのですが「それじゃあダメ、砂糖やニンニクも入れてください」とベトナムの人に教えてもらいました。最近はスーパーでも時々空芯菜を見かけるようになり今日も冷蔵庫に入っています。(笑)

ホーチミンにて、オープンエアでのランチ

 もちろん中には非常に残念な内容の話もあります。
 以前、ベトナム人とどこかの国の人が喧嘩になってベトナムの方が道頓堀川に投げ込まれたという事件があったそうです。Sailの相手に、その事件の感想を求められたことがあったんです。彼は現場にいたわけではなくインターネットで知ったらしいんですが、「周りに日本人が大勢いたにもかかわらず誰も止めなかったのがショックだった」と言っていました。同じ日本人として言語道断と言うか見て見ぬふりというのは恥ずかしい話ですよね。
 このように Sailでの会話で教えられることは多いんですよ。

 少し前に長野で殺傷事件がありました。ミャンマーの男性が同郷の女性を刺殺したという事件です。日本人同士でもよく聞くトラブルですが、外国の人がそういう事件を起こすと、逆に注目を浴びてしまうんですね。「外国人だから」と言って偏見の目で見てはならないと思うのですが。

夫がつなげてくれた幸せを噛みしめる日々。

 『日経ビジネス』で紹介されたSailの記事を読んだ夫が「これあなたに向いているんじゃない?」と言ってくれたのが Sailを始めたきっかけです。もともと、夫は見知らぬ人と話すのが苦手なタイプなんです。けれど、こうして私が外国の人と会話している時、実は隣でいつもニヤニヤと笑っています。妻が外国の人と話しているのをそばで聞いているのが楽しいんです。私たち二人でひとり分という感じですね。
 彼が不在のあいだにSailで掘り出した面白い話があると、後で夫に教えてあげるんです。「今日は相手の人が歌を歌ってくれたんだよ」などと。自分ではSailを使わなくても私を通じて外国の方と繋がってる感じを楽しんでいるんです。
 そもそもアナログ人間の私は、夫がいなかったらSailを始めることもできませんでした。パソコンを触り始めて20年は経っていると思いますが 夫に訊かないと分からないことがまだまだいっぱいあるんです。

マレーシアのモスクにて

ワイキキでビーチヨガ

 コロナ禍になる前までは、主に東南アジアに出かけていました。タイ・インドネシア・マレーシア・シンガポール・ベトナムなど。私は海が大好きです。海のない長野県人の多くは海に憧れます。車窓などから海がチラッと見えただけでも「あ、海だ!」と口走るほどです。海は一日中 眺めていてもたぶん飽きません。
 実は私、水泳部だったんですよ。魚たちと一緒に泳ぐのは子供の頃からの夢でした。だから学生時代に五島列島で泳いだ時、それまで水槽の中でしか見たことのないカラフルな魚や、初めて手に取ったヒトデに、ずいぶん感動したものでした。50歳近くなってからです。ハワイやモルディブでのシュノーケリングで亀と一緒に泳いだり、目の前で魚が苔をかじる「ガジガジ」っていう リアルな音が水中で聞けたりして、このまま竜宮城まで行けるんじゃないかって錯覚するほどでした(笑)

モルディブでサンゴ礁に向かう

 そういえば、つい最近ヒシャブを被ったインドネシアの方とお話ししました。 彼女の家が海まで近くてバイクで5分なんですって。ちょっと 関心があったので「イスラムの方も泳ぐんですか?」「泳ぐ時にはヒジャブを取るんですか?」「腕・脚を出さない水着を着るんですか?」などと訊いてみました。 するとその女性は「ヒジャブは取るけれど肌は出しません」って言ってましたね。そのあとインドネシアの男性の方と話したら、「インドネシアの女性も普通に水着で泳いでいますよ」と言っていたので果たしてどっちなんだろうって、海については聞きたいことばかりですよ。

 Sailでは時々変わった会話になることもあります。たとえば、「僕は愛物語が寂しいです。」って言われたことがあります。どういう意味なのかわからなかったのでよく聞いてみたら、「好きな子がいるんだけれどなかなか告白できない」というお話でした。「だったら、まず誘うことでしょ・・・」とアドバイスを言いかけたところで時間になってしまったんですね(笑)

 中国の留学生から、「本間さんの人生の目的は何ですか?」といきなり聞かれた時には「え!」ってびっくりさせられました。「幸せになることです」と答えました。ひと言で「幸せ」と言っても人によって様々じゃないですか。 「お金持ちになりたい」「名声を残したい」とか。天気が良いということだけで幸福感を感じることもあります。幸せの基準をどこに合わせるかで違いますよね。幸せな気持ちでいたい。 そう思えることが人生の目的かなって思いました。

 Sailの楽しさのひとつは、誰と話すのかわからないという点にもあるのではないでしょうか。元来 私は穴があったら必ず覗いてみたい好奇心旺盛なタイプでした。子供の頃「金たらいにベンジンを入れて燃えるかしら?」と火をつけたら引火して、慌ててたらいをひっくり返したところ排水溝まで燃えて、消火器を抱えた父が飛び出してきて大変なことになったことがあるぐらいです(笑)。
 Sailには何が飛び出してくるかわからないというスリルがあるし、また私はどんな方ともお話できると自負しています。会話を進めていくうちに もう一度接触したくなるので 短い時間でのお別れをいつも残念に思っています。 でも誰と話すのか 最初から決まっているよりもずっと楽しい時間だと思いますね。

 本間さんが何よりも大事にしているのは Sail という秘密の箱だった。箱の中身を開ける時のドキドキするようなスリル感が彼女を虜にしていた。 そしてそんな妻の顔を傍らにいる夫が興味津々と覗き込む。

 「夫とは社内恋愛です。」グレーヘアを掻き上げながら 本間さんが子供のように笑った。

 

(聞き手・ライター 李 春成) 

 

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