選ばれる国になるために②〜ドイツの「統合コース」から学ぶ多文化共生〜
2019年4月、在留資格「特定技能」が新設され、日本政府は外国人労働者の受け入れに大きく舵を切りました。従来の技能実習制度が、外国人材の育成と開発途上国への技術移転を目的とした期限付きの研修制度であったのに対して、「特定技能」は深刻な労働力不足の解消を目指しており、一定の条件を満たせば家族を呼び寄せて日本に定住できるようになります。この日本政府の方針は移民の受け入れを推進しているように見えますが、政府は外国人労働者の受入人数や滞在期間を制限することを理由に「移民政策ではない」と明言しています。
いまや人口の2割を移民とその子孫が占めるドイツも、かつては外国人材を移民ではなく出稼ぎ労働者として受け入れていたという歴史があります。そして、移民政策を後手に回した結果、ドイツ語が話せず社会になじめない外国人コミュニティーとドイツ人の間に亀裂が生じ、社会の分断が進みました。その反省から、05年に移民法で「統合コース」(Integrationskurs )を設立し、定住を希望する移民にドイツ語や文化を学ぶことを義務付けました。今回は、ドイツの移民政策の一つ「統合コース」から日本が学べる点を考えたいと思います。
1.充実したコース内容
統合コースは、ドイツ語600時間、オリエンテーション100時間の合計700時間のコースで、ドイツ語だけでなく、社会統合に必要不可欠なドイツの歴史や文化、さらには、信仰の自由、男女同権などドイツで尊重されている権利や義務などについて学びます。このコースでは、*CEFRの「B1」という6段階中下から3番目の言語レベルの到達が期待され、移民のドイツ社会での自立を目指しています。
「外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR: Common European Framework of Reference for Languages)」は、言語の枠や国境を越えて、外国語の運用能力を同一の基準で測定できるように開発された国際基準です。A1<A2<B1<B2<C1<C2の6段階に分かれており、B1は「仕事、学校、娯楽などで普段出会うような身近な話題について、標準的な話し方であれば、主要な点を理解できる。その言葉が話されている地域にいるときに起こりそうな、たいていの事態に対処することができる。身近な話題や個人的に関心のある話題について、筋の通った簡単な文章を作ることができる」レベルに当たります。
2.多様な学習者への配慮
統合コースは、2018年11月の時点で市民大学(Volkshochschule)、民間の語学学校や専門学校、カルチャーセンターなど計8027 か所で開講され、移民がコースにアクセスしやすい環境です。また、仕事や家族の世話で忙しい人でも参加できるように同じクラスが異なる時間帯に開講されています。さらに、十分に読み書きができない人・特別な支援が必要な人のためのコースなど多様な学習者に配慮したコースが提供されています。
3.安価な受講料
統合コースは、難民や生活保護受給者は無償で受講できます。また、私的な理由で定住を希望する場合であっても1時間1.9ユーロ(約250円)ほどの負担です。コース終了時の試験に一定期間内に合格すれば半額が返還されるそうです。
日本で2019年に施行された日本語教育推進法では、国や地方自治体、事業者が在住外国人の日本語教育の責務を負うことが明記されました。その結果、在留外国人の日本語教育を進める動きが見られますが、働く会社や住む地域によって格差があるのが現状です。また、ドイツの統合コースのように確立したカリキュラムや到達目標はなく、学習時間も少ないため、日本語の習得と日本社会への適応に時間がかかってしまいます。
前述の「特定技能」により、今後日本に定住する外国人労働者の増加が見込まれます。“いずれ国に帰る存在”だからといって日本語教育を軽視するのではなく、“日本社会を共に創る仲間”として受け入れ、彼らが日本語を学ぶ権利を保障すべきです。かつてのドイツのように社会に分断を生まないためにも、在日外国人の日本語教育の整備を望みます。
参考資料
「外国人受け入れの先進事例に学ぶ 移民の「統合」目指すドイツ」,NHK,2019年4月5日
「移民問題とドイツの課題」,News Digest,2010年10月29日
「ドイツにおける外国人の社会統合について」,ESD活動支援センター
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